多くの企業が、ベテラン技術者の引退と共に蓄積されたノウハウの消失という大きな課題に直面しています。「技術継承ができない」「技術者の育成が難しい」という声が上がる中、次世代の育成が急務となっています。この記事では、技術継承が進まない原因と効果的な対策について解説し、未来に向けての解決策を提案します。
目次
- 技術継承が進まない背景と課題
- 1-1 ベテラン技術者の引退加速とその影響
- 1-2 継承できない技術とその特徴
- 技術者育成が進まない理由
- 2-1 成功体験がもたらす育成の障害
- 2-2 企業の育成支援の不足とそのリスク
- ノウハウの失われるリスクと防止策
- 3-1 ナレッジマネジメントと技術の標準化
- 3-2 技術継承のデジタル化と効果的な導入方法
- 未来の技術者育成に必要な変化
- 4-1 メンタリングとチームによる知識共有
- 4-2 若手技術者が育つための支援体制
- 企業文化としての技術継承
- 5-1 持続可能な技術継承のための風土づくり
- 5-2 技術継承を組織文化に根付かせる
本文
1. 技術継承が進まない背景と課題
1-1 ベテラン技術者の引退加速とその影響
近年、ベテラン技術者の引退が急速に進んでいます。熟練者が持つ「暗黙知」と呼ばれる経験や知恵は、マニュアル化が難しく、引退により貴重なノウハウが失われるリスクが高まっています。その結果、若手技術者の成長が遅れ、生産性や品質の低下が懸念されるほか、現場でのトラブルが増加する可能性も高まっています。企業はこの影響を最小限に抑えるために、技術継承の仕組み作りを急がねばなりません。弊社お客様でもよくあるのが、60代~70代の技術者が新規提案にあたっても納品にあたっても難易度が高い案件になると頼り切ってしまっているが、若手がその熟練の技術者の知見を引き継げておらず、現状はよくても数年先が恐ろしいという声も多く聴きます。
1-2 継承できない技術とその特徴
技術には、文章やデータで表現しやすい「形式知」と、感覚的に得られる「暗黙知」があります。特にベテラン技術者が蓄積してきた経験は、暗黙知の割合が高く、継承が困難です。暗黙知は実地経験を通じてのみ習得できるため、体系化やマニュアル化が不十分だと、技術が失われるリスクが増大します。このため、継承が難しい技術の特性を理解し、個別対応が必要です。
ただこの一見難しいとされる「暗黙知」も、実は、80%~90%は「形式知」に変えられるということを多くの技術者は知らないということもあります。
2. 技術者育成が進まない理由
2-1 成功体験がもたらす育成の障害
ベテラン技術者の中には、成功体験に基づいた「やり方」に固執するあまり、若手技術者への柔軟な指導が難しいケースがあります。また、ベテラン自身が育ってきた方法が最良と考え、後進の育成に手間を惜しむことも少なくありません。このような「経験の壁」は若手の自主性を阻害し、技術者育成が進まない原因の一つとなっています。ただし、これら技術者の特徴は悪いことではないと私は考えています。これまで私が多くの企業や技術者を見ていても、技術者の本分として、より深みを追求していくとすると、いわゆる”属人性”はどうしても出てきてしまいます。それによって、難しい課題もクリアされることもあるわけですので、問題は、技術者にあるのではなく、会社として、人事として仕組みを作っていない会社側にあると私は考えます。
2-2 企業の育成支援の不足とそのリスク
多くの企業では、忙しい現場業務の中で育成に十分なリソースが割かれていないことが課題です。特に、即戦力が求められる現場では、新人教育が疎かになりがちです。その結果、若手技術者の成長が停滞し、技術継承が進まないままベテランが引退するという悪循環が生じます。企業全体で育成支援の重要性を認識し、計画的な人材育成を実施する必要があります。
3. ノウハウの失われるリスクと防止策
3-1 ナレッジマネジメントと技術の標準化
技術継承を効果的に行うには、ベテランのノウハウを標準化し、共有できる形で管理することが重要です。最近多いのが、何らかのナレッジマネジメントシステムを導入すれば、それができると考え、安易に現場へそのシステムを使って、技術継承をしなさいと指示をする企業様がいらっしゃいます。
そうすると、そのシステムにノウハウを入れることが目的になってしまって、それを活用して育成を行っていく、生産性をあげるなどの真の目的を見失ってしまったり、システムに入れる情報は、ベテランの属人的な技術を入れるだけになってしまって、結局若手からしても、それを見てもわからない・・・ということになりかねません。大切なのは、何を残すのか?判断・基準・禁則・カンコツ?という定義と、そもそもの業務の全体像の整理整頓と、残すべき技術を置く場所となる地図を作る必要があります。地図も誰がみてもわかるルールで作る必要があり、また、そこに込めるノウハウについても書き方などのルールを策定する必要があります。
3-2 技術承継のデジタル化と効果的な導入方法
昨今ではデジタルツールの活用により、技術の継承プロセスを効率化することが可能です。動画マニュアルやAR技術を使ったトレーニングなど、視覚的に学べるコンテンツを導入することで、若手技術者が実際の作業を理解しやすくなります。ただしこういうデジタルツールも、どう使うのか、何に使うのか、何を残すのか、誰がいつ使うのかといったことを定義しておかないと、結局使われない、属人化の温床につながることも注意が必要です。
4. 未来の技術者育成に必要な変化
4-1 メンタリングとチームによる知識共有
ベテラン技術者のノウハウを効果的に継承するために、個人指導ではなくチームによる指導が求められます。メンター制度を導入することで、若手が先輩から直接指導を受け、実地で技術を学ぶ機会が増えます。ただし、社員が少ない企業様においては、メンターを個別でおけないケースもあるので、その場合は、チーム誰にでも聞いてもいい良しとするルール設定をして、聞いたことは、チーム全体で共有できる仕組みを整えるなどをすることで、各メンバーの強みを活かした成長が促進され、技術の継承もスムーズに進むでしょう。
4-2 若手技術者が育つための支援体制
若手技術者が成長するためには、技術面だけでなく、環境面での支援も不可欠です。働きやすい職場環境を整え、柔軟なキャリアパスやスキルアップの機会を提供することで、若手の意欲と定着率を向上させることができます。技術継承をスムーズにするためには、若手が技術を学びやすい環境作りが重要です。
5. 企業文化としての技術継承
5-1 持続可能な技術継承のための風土づくり
技術継承を企業文化に組み込むことで、世代を超えて知識が自然に伝わる仕組みが生まれます。継承を日常業務の一環と捉え、全社員が知識を共有し合う風土を醸成することで、持続的な技術継承が可能になります。技術の伝承は一時的なものではなく、組織全体で取り組む姿勢が重要です。文化風土として定着するまでは、評価項目にいれて意図的に意識させることも大切です。ただし、強制にし過ぎるのも禁物ですので、そのバランスは工夫が必要です。
5-2 技術継承を組織文化に根付かせる
技術継承を単なる業務の一環とするのではなく、組織の根幹に据えることで、技術が失われるリスクを最小限に抑えられます。定期的な勉強会や発表会、技術コンテストなどを通じて、全社員が継承の重要性を再確認し、企業全体で知識を共有する文化を築くことが大切です。このような取り組みを通じて、技術継承が企業文化として定着するでしょう。そもそも、自社の熟練の技術は宝であるということから社員で考えていくことも大切だと考えます。
「当社の技術力は?」素人にもわかるように、強みや価値を社員に考えてもらい、アウトプットしたものを承認しあいながら、改めて自社の技術の価値に気づいてもらう機会も作ってみたらいかがでしょうか?