「他社は技術継承にどう取り組んでいるのか知りたい」
「うちの規模でも、成果が出る取り組み方はあるのか」
「最初の部署ではうまくいったが、社内に広げようとしたところで止まってしまった」
技術継承の取り組みについて、こうしたご相談をよくいただきます。
結論から言うと、技術継承の取り組みで成果を出している会社に共通するのは、「判断の基準を残すこと」と「取り組みを仕事と人の仕組みにつなげること」です。ただし、つまずき方は会社の規模によって違います。中小企業は「仕組みがないところから始める」、大手企業は「仕組みはあるのに回っていない」ことが多く、進め方も変わります。
この記事では、中小企業と大手企業それぞれの技術継承の取り組み方と、成果につながった事例、社内に広げるときのコツを解説します。
| 中小企業 | 大手企業 | |
|---|---|---|
| よくある状態 | 紙・Excel・口頭で回っている。ノウハウは人の頭の中 | 標準書や禁則集はある。でも使われていない |
| つまずきやすい所 | 何から手をつければよいか分からない | 情報が多すぎて、必要なものにたどり着けない |
| 最初の一手 | 「その人がいないと止まる仕事」の見える化 | 今ある知見の整理し直しと、使う場面の決め直し |
| 取り組みの広げ方 | 社長が旗を振り、一つの業務から全社へ | 最初の部署の成果を見せ、他部署に横展開 |
技術継承の取り組みとは——何をすることなのか
技術継承の取り組みとは、熟練者の技術・判断・経験を、次の世代が使える形にして残し、会社の力として受け渡していく活動のことです。
具体的には、次のような取り組みがあります。
- ベテランへの聴き取りと、ノウハウの文書化
- 業務の流れの見える化と、標準化
- 動画マニュアルや、社内のノウハウ検索の仕組みづくり
- 育成の段階づけと、計画的な育成
- 教える役割を評価に組み込むこと
どれか一つで完結するものではなく、目的に合わせて組み合わせることが大切です。全体像は、技術継承とは?製造業で成功させるために現場でやるべきことで解説しています。
中小企業の技術継承の取り組み方
中小企業でよくある状態
中小企業では、仕事が紙・Excel・口頭で回っていて、大事な判断は特定のベテランや社長の頭の中にある、ということがよくあります。AIやツールに興味はあっても、自社のどの仕事にどう使えばいいのかが分からない、という声もよく聴きます。
進め方のポイント
- 「その人がいないと止まる仕事」から始める:全部をやろうとせず、止まると困る仕事に絞る
- 社長の仕事も見える化する:社長に判断が集中している場合は、社長にしかできない判断(値決め・最終判断など)と任せられる部分を分ける
- 書かせず、話してもらう:ベテランも社長も、ふだんの言葉で話すだけにする。整理するのは周りや外部の聴き手
- 5Sや置き場所のルールなど、効果が見えやすいことも一緒に:成果が早く見えると、社内の協力が得やすくなる
事例:株式会社サイトー
株式会社サイトーでは、「ノウハウ」「見積のデータ」「ものづくりの工程」の3つの取り組みを進めました。
1つ目はノウハウです。ベテランのノウハウを聴き取り、業務フローとノウハウメモに整理しました。整理したノウハウは、社内で使える「ナレッジAI」につなげ、必要なときに調べられるようにしています。
2つ目は見積です。引き合いから見積までの流れに沿ってデータを整理し、過去数年の価格トレンドをBIツール(データをグラフなどで見える形にする道具)で見られるようにしました。見積の判断をAIに任せたのではなく、データを見える形にしたことで、単価を見直すときの根拠がつくれるようになりました。
3つ目はものづくりの工程です。溶接・機械加工・組立の工程を整理し、5Sに取り組み、置き場と持ち出しのルールを決めました。
その結果、手戻りは3分の1、探す時間は5分の1になり、二重発注もなくなりました。ムダが減った分、生産性と粗利が上がりました。成果が出るまでは3か月〜半年でした。
この事例のポイントは、全部を一つのやり方で片づけようとしなかったことです。ノウハウは言葉にしてAIで調べられるように、見積はデータとして見えるように、モノは置き場とルールで迷わないように。残したいものの性質に合わせて、方法を選んでいます。
大手企業の技術継承の取り組み方
大手企業でよくある状態
大手企業では、標準書や禁則集などの仕組みはそろっていることが多い一方で、「仕組みはあるのに回っていない」という悩みをよく聴きます。標準の定義書を現場が知らない、不具合を記録しても横展開されない、設計の変更が口頭で伝わって手戻りが起きる、といった状態です。
進め方のポイント
- 今ある知見を整理し直す:増えすぎた知見を、必要なときにすぐたどり着ける形に組み直す
- 使う場面を決め直す:設計レビューの前、見積の前など、業務のどこで使うかを決める
- 部門をまたぐずれをなくす:部門ごとに同じ言葉の意味がずれていないかを確かめる
- 自分たちで回せるようにする:最初の業務フローは一緒につくり、次はお客様がつくって当社がレビュー、最後は自走する(この進め方は中小企業でも同じです。会社の規模ではなく、取り組みの成熟度に合わせて、一緒に変えるか、自分たちで変えられるようにするかを選びます)
事例:大手自動車部品メーカーの開発部門
ある大手自動車部品メーカーの開発部門では、設計標準や禁則集はそろっていたものの、知見が数千件に膨らみ、設計レビューのたびにすべてを確認する負担が大きくなっていました。知見をパターンごとに整理し直し、必要な知見にすぐたどり着ける枠組みをつくったことで、確認の手間は2分の1〜5分の1になりました。整理した知見をAIと組み合わせた経緯は、技術継承×AI活用|現場のノウハウを「社内AI」にする方法と、AIの前にやるべきことで紹介しています。
Tecrhymeの事例:取り組みを人の仕組みにつなげる
規模にかかわらず、取り組みが一過性で終わる会社と、根づく会社の違いがあります。それは、取り組みを人の役割と評価にまでつなげているかどうかです。
三立機械工業株式会社
三立機械工業株式会社では、全社の業務を見える化したうえで、リーダー以上の期待役割に「標準化」と「人材育成」をはっきり書き込みました。自主的に標準化に取り組んでいた人の努力が見えるようになり、上の層の「自分の仕事が終われば終わり」という考え方も変わり始めています。取り組みの詳しい経緯は、業務の属人化を解消する方法と成功事例で紹介しています。
技術継承を「現場の取り組み」だけにせず、現場・技術と人事の両方から仕組みにすることが、取り組みを根づかせる近道です。
▶ 資料「技術継承が上手くいかない理由と成功させる方法」をダウンロードする
よくある失敗:最初の部署ではうまくいったのに、社内に広がらない
技術継承の取り組みで多いのが、「最初の部署ではうまくいったが、社内に広げるところで止まった」という悩みです。
| 止まる理由 | 対策 |
|---|---|
| 最初の部署の成果が、ほかの部署に見えていない | 成果を数字と現場の声の両方で見せる(探す時間、手戻り、ベテランの声など) |
| 担当者が孤立している | 経営層が目的を示し、取り組みを会社の方針として位置づける |
| 部署ごとに事情が違い、そのまま真似できない | やり方(聴き取り方・整理の枠組み)だけをそろえ、中身は部署ごとにつくる |
| 取り組んでも評価されない | 期待役割と評価に組み込む |
社内に広げるときは、「何を残したか」より「どう進めたか」をそろえるのがコツです。聴き取りの仕方、ノウハウの分け方、業務の流れへの結びつけ方がそろっていれば、部署ごとの中身が違っても、同じ質で広げていけます。
■杉浦のひとこと
技術継承の取り組みを始めると、それまで見えていなかった課題がたくさん出てきます。「うちはこんなに問題があったのか」と感じるかもしれません。でも私は、課題はネガティブなものではなく、伸びしろだと考えています。
どこの会社にも当てはまる一般論の答えでは、取り組みは根づきません。その会社のリアルな姿と、本当の課題に向き合うからこそ、次に何をすればよいかが見えてきます。見えた課題の数だけ、会社は良くなれる。そう思って取り組んでいただくと、社内にも前向きに広がっていくはずです。
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技術継承の取り組みでよくある質問(FAQ)
Q1. 中小企業でも技術継承に取り組めますか?
取り組めます。むしろ、社長や現場との距離が近い中小企業の方が、早く成果が出ることもあります。「その人がいないと止まる仕事」に絞り、ベテランに話してもらう形で始めれば、大きな負担なく進められます。
Q2. 技術継承の取り組みは、どのくらいで成果が出ますか?
対象の範囲によりますが、Tecrhymeの支援では、成果が見え始めるまでに3か月〜半年ほどかかることが多いです。探し物の時間や手戻りなど、効果が見えやすいことも一緒に取り組むと、早い段階から手応えを感じられます。
Q3. 技術継承の取り組みを社内に広げるには、どうすればよいですか?
最初の部署の成果を、数字と現場の声の両方で見せることが大切です。あわせて、聴き取り方や整理の枠組みといった「進め方」をそろえ、部署ごとに中身をつくれるようにします。取り組んだ人が評価される仕組みにつなげることも欠かせません。
まとめ:技術継承の取り組みは、規模に合った始め方と「人の仕組み」へのつなぎが鍵
- 成果を出す会社の共通点は、判断の基準を残し、仕事と人の仕組みにつなげること
- 中小企業は「止まる仕事」の見える化から。社長の判断も分けて残す
- 大手企業は今ある知見の整理し直しと、使う場面の決め直しから
- 期待役割と評価に組み込むと、取り組みが根づく
- 社内に広げるときは「進め方」をそろえる
最初の一歩として、技術継承の取り組みが、自社では「仕組みがない」状態か「仕組みはあるのに回っていない」状態か、どちらに近いかを考えてみてください。それによって、最初の一手が変わります。
Tecrhymeは、中小企業から大手企業まで、経営層から一人ひとりまで、立場をこえて本音を聴き、業務とノウハウを見える化し、技術継承を役割・評価の仕組みまでつなげて支援しています。お気軽にご相談ください。
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■この記事の監修者

杉浦大介(株式会社Tecrhyme 代表取締役)
1978年愛知県名古屋市生まれ。南山大学経営学部経営学科卒。大手空調メーカーで営業職からキャリアをスタートし、大手自動車部品開発会社に人事として転職、人事変革を推進。人事コンサルティングベンチャー企業でCOOを務め、上場準備期まで企業成長を主導。2023年3月に株式会社Tecrhymeを設立。これまでに1500社以上の経営者・人事責任者への講演活動、200社以上のコンサルティングを実施。2021年に『理系の[採用・活かし方]トリセツ~テクダンテクジョがあなたの会社を10倍伸ばす』(ぱる出版)を出版。

