「〇〇さんがいないと判断が止まる」
「教えてほしいと頼んでも『見て覚えろ』としか言われない」
「あの人が定年になったら、この現場は回らないかも…」
製造業の現場で、このような声は非常によく聞かれます。こういった個人の頭の中にしかない知識やノウハウを「暗黙知」といいます。
「ベテランの頭の中にしかないノウハウ=暗黙知を、現場の全員が使える形=形式知にしたい」とお考えの、製造業の現場責任者・経営者の皆様へ、200社以上の製造業・建設業を支援してきた私たちテクライムが得た5つの方法をお伝えします。
| 【この記事で分かること】 ・暗黙知と形式知の違いと、製造現場での具体例 ・ベテランの暗黙知を引き出す4つの分類(カン・コツ/判断基準/経験則/禁則事項) ・暗黙知を形式知に変える5つの方法と、その順番 ・ベテラン本人の負担はどのくらいか(約10時間) ・「作ったのに使われない」を避けるポイント |
暗黙知とは?形式知とは?
暗黙知とは、本人の中には確かにあるのに、言葉や文書になっていない知識のことです。製造現場でいえば「炉の音と色で温度の加減を判断する」「図面に書いていない加工のコツを知っている」といったものです。
一方の形式知は、手順書・判断フロー・チェックリストのように、他の人が読んで再現できる形に言語化された知識を指します。ポイントは「誰でも使える」ことです。
製造業の支援でよく目にするのが「図面は残っているが、肝心なことが書いていない」という状態です。過去の図面や不具合の記録はあっても、「なぜそのやり方を選んだのか」はどこにも書かれていない。残っているのは結果だけで、判断は人の頭の中にしかないのです。
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なぜ今、暗黙知を形式知にする必要があるのか

暗黙知の属人化は「将来の技術継承の問題」だけで語られがちですが、実は目の前の「今日の生産性問題」でもあります。
私たちの支援先で実際にあった例ですが、難易度の高い案件はすべてベテランのAさんに聞かないと動けず、現場の社員は「これ、お願いします」と次々に持ち込む。社長は何年も「早く技術継承してくれ」と言い続けているのに一向に進まない…という状況でした。
しかしAさんにやる気がなかったわけではなく、どうすればいいか分からなかっただけなのです。人に教えた経験がないため、若手が何を分からないのかが分からない。「これくらい分かっているだろう」という言い方になり、若手はますます聞けなくなる。この悪循環が今日の生産性を確実に削っていました。
また、Aさんがこのまま定年退職を迎えると、当然ノウハウも技術も人脈も一緒に会社から消えてしまいます。いずれにしても、暗黙知は少しでも早く形式知に変換しておく必要があるのです。
ベテランの暗黙知は4つに分類すると引き出せる
ただ、暗黙知を引き出すためベテラン本人に「ノウハウを教えてください」と頼んでも、なかなか出ては来ません。本人にとって、日々やっていることは当たり前すぎて、何がノウハウなのか自覚できないからです。
そこで私たちテクライムが200社を超える技術継承の支援の中で体系化したのが、次の4つの切り口です。

- カン・コツ(体感的な調整と見極め):設定温度は仕様書どおりでも、素材のロットや季節の湿度で微調整が必要。その加減を、ベテランは炉の音と色で判断している
- 判断基準(次の工程に送るための分岐の基準):たとえば設計レビューを試作に回してよいのは、材料規格の確定・コスト試算・取引先への事前確認の3点が揃ったとき
- 経験則(過去の失敗と成功から得た法則):「外注先が繁忙期に入って担当者が変わると品質が落ちる。以来、繁忙期の前には必ず担当者を確認する」
- 禁則事項(やってはいけないこと):「機械が停止していても、電源が入っている間は内部に手を入れない」「切り粉は素手で取らず、エアブローか専用ツールを使う」
4つのうち、判断基準と禁則事項はOKかNGかがはっきりしているため、比較的ヒアリングしやすい部分です。
一方で、カン・コツと経験則はほとんど言語化されていません。ベテランの頭の中に最も深く埋もれているのがこの2つです。
「自社のベテランのノウハウが、どの分類に当たるのか分からない」「問いの立て方に迷う」という場合は、専門家に整理を任せるのも手です。製造業を中心に200社以上の支援の実績を持つテクライムは、現場でのヒアリング力を強みの1つとしており、御社のベテランの勘所を最大限引き出します。
暗黙知を形式知に変える5つの方法
暗黙知を形式知に変える作業では、次の5つの方法を使って、「誰のどの作業にノウハウが隠れているか」を特定し、残し方を選びます。
方法1:業務の見える化で「ノウハウの置き所」を特定する
まずは営業~設計~製造~出荷までの業務の流れを描き、どの工程のどの判断に誰のノウハウが効いているのかを特定します。ポイントが絞れれば「ここだけを聞けばいい」という対象が決まるため、ベテラン側の負担も減ります。
方法2:第三者ヒアリングで言語化する
ここが最も差がつくポイントです。「これに書いておいてください」だけでは本人もどう書いていいか分からず、期待した答えが得られません。
テクライムの支援では、週1回ベテランの方に30分だけ時間を取っていただき、質問に答えてもらうだけです。その後に叩き台を作り、本人に修正と付け加えをしてもらいます。4つの切り口に沿って質問を重ねていくと、本人も気づいていなかった知識がだんだんと言葉になっていきます。
方法3:ノウハウメモに文書化する
聞き取った内容は1件ずつ「ノウハウメモ」のような定型フォーマットに当てはめていきます。確認項目や判断のポイント、不具合とその是正方法、禁則事項、そして「このノウハウを業務のどこで使うのか」まで書き込みます。

方法4:共有会で「全員が使える」状態にする
文書化したノウハウは、共有されなければ意味がありません。ベテランと若手・中堅が同じ場でノウハウメモを見ながら話す「共有会」を開くと、「これはこういう場面で使う」という補足や更新が自然に起こり、社内に「残す文化」が根づいていきます。
方法5:生成AIで「聞けば答える」状態にする
整理されたノウハウメモと業務フローが揃うと、生成AIに読み込ませて「社内のノウハウに聞けば答えてくれる」環境を作る道が開けます。
ただし、整理されていないデータをAIに入れても効果はないため、必ず方法1〜4を実施した後に行ってください。
テクライムでは、こういったAIツールの提供も予定していますので、導入を検討しておられる企業はぜひお問い合わせください。
▼ノウハウの見える化から共有までの進め方をまとめた、テクライムの業務可視化サービス「GENBA SCOPE(ゲンバスコープ)」の資料は、以下から無料でダウンロードいただけます。
形式知化の進め方と現場の負担
「ベテランの時間をそんなに取れない」というのは、よくいただくご心配です。実際には、ベテラン本人の拘束時間は合計10時間程度。現場を止めずに約3ヶ月で回せます。
| ステップ | 内容 | ベテラン本人の工数 |
| ① 残したい項目のヒアリング | 何を残すべきかを一緒に整理する | 1〜2時間 |
| ② 業務フロー構築のヒアリング | 週1回30分〜1時間、約3ヶ月 | 週30分〜1時間 |
| ③ ノウハウメモの作成 | 支援側が叩き台を作り、本人が修正・追記 | 1件あたり1〜2時間 |
| ④ 中間・最終報告会 | 整理した内容の確認 | 各1時間 |
| ⑤ 社内共有会 | 若手・中堅への共有 | 1〜2時間 |
この形で業務フローとノウハウを整理しておけば、新人が「迷ったらこれを見ればいい」と判断できる範囲が広がり、分からないところだけを聞いてくるようになります。私たちの支援先では、新人の育成工数が3分の1になった例もあります。
暗黙知の形式知化が失敗する3つのパターン

私たちのもとには「マニュアルを作ったのに使われない」というご相談もよく届きます。こういった失敗には以下のような共通のパターンがあります。
- 本人任せで書かせる:「このツールに書き込んでおいて」と指示すると、書くことが目的になり、誰がいつ使うのかを考えずに入力してしまう
- ツール先行で標準化されていない:ツールを導入する前にどのスキルや手順を登録するかを決めておかないと、入力内容が人によってバラバラで検索・比較ができない
- マニュアルを1回作って終わり:見にくい・細かすぎる・実態に合っていないなどの問題があったときに、見直しや更新がないとそのまま使われなくなってしまう
他に「ベテランが協力してくれない」という声を聞くこともあります。しかしその場合、育成の時間が減ること、技術が会社の資産になること、自分の技術の価値を再発見できることなど、メリットを1つずつお伝えすると、むしろ熱心に協力してくださる方がほとんどです。
ベテランの本音を引き出すには、第三者の力も選択肢に

社内で「このやり方を変えませんか?」と言っても、どうせ誰も対応しないだろう…と何も言わない方でも、社外の人間にならノウハウや本音を話してくれることは珍しくありません。
ある支援先では、67歳のベテランで社内では「難しい人」と言われていた方が、毎週のヒアリングを「一番楽しい時間」と言ってくださるようになり、その方のノウハウは今、会社の中で活用されています。
私たちがヒアリングで大切にしているのは、技術者の置かれている背景への理解と共感です。技術の難しさや価値を分かったうえで話すと「この人、話が分かる」となり、普段は言わないことまで話してくださるからです。
GENBA SCOPE(ゲンバスコープ)は、現場の見える化を起点に「何を、どこから変えるべきか」を一緒に描く伴走型のサービスです。技術継承が目的の場合、ノウハウの置き所を特定して引き出し、形式知にまとめるところまで一緒に進めていきます。
暗黙知の形式知化でよくある質問(FAQ)
Q1. 暗黙知と形式知の違いは何ですか?
暗黙知は、本人の中にはあるが言葉や文書になっていない経験的な知識、形式知は、他の人が読んで再現できる形に言語化された知識です。
Q2. 言語化が苦手なベテランでも形式知化できますか?
できます。本人に書いてもらうのではなく、質問に答えてもらう形にします。叩き台は聞き手が作り、本人は修正と追記をするだけなので、文章を書くのが苦手でも問題ありません。
Q3. 形式知化にはどのくらいの工数・期間がかかりますか?
ベテラン本人の拘束は、週1回30分のヒアリングを中心に合計10時間程度。期間は約3ヶ月が目安です。
まずは「ノウハウの置き所」の特定から
暗黙知の属人化は、将来の継承問題である前に、今日の生産性の問題です。
まずは業務の流れを見える化して「誰のどの作業にノウハウが隠れているか」を特定するところから始めませんか。
■この記事の監修者

杉浦大介(株式会社Tecrhyme 代表取締役)
1978年愛知県名古屋市生まれ。南山大学経営学部経営学科卒。大手空調メーカーで営業職からキャリアをスタートし、大手自動車部品開発会社に人事として転職、人事変革を推進。人事コンサルティングベンチャー企業でCOOを務め、上場準備期まで企業成長を主導。2023年3月に株式会社Tecrhymeを設立。これまでに1500社以上の経営者・人事責任者への講演活動、200社以上のコンサルティングを実施。2021年に『理系の[採用・活かし方]トリセツ~テクダンテクジョがあなたの会社を10倍伸ばす』(ぱる出版)を出版。

