製造業でDXを任されている企画・生産管理・情報システム部門のご担当者様、経営者の皆様へ、200社以上の製造業・建設業の現場を支援してきた私たちテクライムの結論を最初にお伝えします。
「生産管理システムを入れたが、結局Excelで管理している」
「AIを全社に導入したが、使っているのは一部の人だけ」
「DXを進めるよう指示されたが、何から始めればいいのか社内で説明できない」
テクライムの支援の現場では、DXの推進を任された方から、こうしたご相談をよくいただきます。
製造業のDXが進まない理由は、ツールや人材が足りないからではありません。デジタル化する前の「業務」が整っていないからです。
デジタル化できるのは言葉にできている仕事や作業だけです。いきなりツールに当てはめようとせず、まずは言語化できていない部分を見える化・標準化することが欠かせません。
この記事では、支援の現場で実際に見てきた「進まない理由」と、データ化の前にやるべきことを、支援の実例とともに解説します。
| 【この記事で分かること】 ・製造業のDXとは何か、「デジタル化」との違い ・製造業のDXが進まない5つの理由 ・データ化の前にやるべき3つのこと ・AI活用までつなげた支援事例 ・DXを外部と進めるときのパートナーの選び方 |
製造業のDXとは?「デジタル化」との違い
まずは、そもそもDXとは何か、「デジタル化」とどう違うのかを整理しておきましょう。
DXとは、ツールを入れることではなく、デジタルを使って仕事のやり方そのものを変えることです。
製造業のDXは、大きく3つの段階で考えると整理しやすくなります。
- ➀紙や口頭でやり取りしている情報を、データにする
- ➁業務の流れを、デジタルで回せるようにする
- ➂データとデジタルを前提に、仕事のやり方や事業のあり方を変える
会社の経営を車に例えると、DXは「コンピューター制御」にあたります。ただし、ドライバー(人)やエンジン(業務の流れやつながり)が整っていなければ、制御だけを新しくしても車はうまく走りません。
数字を見ても、多くの会社がつまずいているのは「データを取る」と「活かす」の間です。
経済産業省の「2026年版ものづくり白書」によると、製造プロセスのデータを取得している事業者は66.0%ですが、そのデータを活用している事業者は51.4%、活用によって効果が得られた事業者は43.9%にとどまっています。
また、IPA(情報処理推進機構)の「DX動向2026」では、DXに取り組んでいる企業の割合は、従業員1,001人以上では98.7%に達する一方、100人以下では41.6%にとどまっています(全業種の調査)。中小企業では、その手前の「データ化」から始まっていない会社も少なくありません。
■杉浦のひとこと
DXのご相談で実は一番多いのは、DXの手前の段階です。紙やExcel、口頭で回っている仕事をまずデータにする、そこができていないのにAIの話から始めてしまう。一段ずつ上がる方が、結局は早いと感じています。
だからこそテクライムでは、ツールの話の前に、まず仕事を見える化して、社内の当たり前を疑うところから始めます。
▼生産性向上を「見える化→標準化→デジタル化」の順番で進める方法は、こちらの記事で詳しく解説しています。
あわせて読みたい:製造業の生産性向上は「見える化→標準化→デジタル化」の順番が命!失敗しない進め方解説
製造業のDXが進まない5つの理由

DXが進まない理由としては、一般に「DX人材が足りない」「予算がない」「古いシステムが残っている」などが挙げられます。どれも間違いではありませんが、現場を見ていると、それらは実は”結果”であることがほとんどです。
その手前には、次の5つの理由があります。皆さんの会社・職場ではどうでしょうか?当てはまるものがないか、確かめながら読んでみてください。
理由1:ツール選びから始めている
よくあるのが、各社のツールを比較表にして一番良さそうなものをサブスクで入れ、結局使えなかった、というパターンです。いつの間にか目的が「導入すること」になってしまっています。
大手企業では、「部門の予算で今年何か改善を」と言われ、展示会にツールを探しに来られる方も多くいらっしゃいます。任された担当者が、何のために入れるのかを社内で共有できないまま孤立してしまうことも、このパターンでよく起きることです。
理由2:業務が見えていない・標準化されていない
人によってやり方が違う業務をシステムに取り込もうとしても、入力内容にばらつきが出てデータとして比べることができず、結局使えません。
「誰が、どの順番で、何を見て判断しているのか」がはっきりしない状態では、何をデジタル化すればよいのかも決められないのです。
理由3:部門ごとに同じ言葉の意味がずれている
同じ「納期」という言葉でも、営業は受注日から逆算し、製造は着手日から数え、経営者は出荷日で見ている。こうしたずれは、驚くほど多くの会社で起きています。ずれを残したままシステムを入れると、ずれごと固定されてしまいます。
たとえば過去には、営業・設計・製造がそれぞれ他部門への不満を抱えている会社がありました。ところが一人ひとりの本音をよく聞いてみると、どの部門も「もっと業務を良い状態にしたい」と思っていたのです。
本当の原因は、部門をまたいで話し合う場も、進め方もなかったことでした。3部門の本音を共通のフォーマットで整理し、定例のすり合わせの場を設けたところ、連携が回り始めました。対立に見えていたのは、実は同じ方向を向いていた本音だったのです。
理由4:本音が入力されない
「ここに正直に入力したら、どんな反応があるか分からない…」と感じた社員は、当たり障りのないことしか入力しません。報告では「活用しています」と書かれていても、現場では使われていない、ということも起こります。AIを全社に入れても、使いこなす人と、機能の1割しか使わない人に分かれてしまいます。
これは、一概に現場の社員だけの問題とはいえません。多くの場合、原因は本音を言える場がないことにあります。
理由5:入れっぱなしで振り返らない
ツールを入れたあと、使われているか、効果が出ているかを誰も確かめていない会社も実は少なくありません。振り返りの仕組みがないと、使われていないことに気づくのが遅れ、気づいたときには「結局使えないツール」になっています。
大手と中小では、最初に出てくる相談が違う
DXのご相談の内容は、大手企業と中小企業でやや傾向が異なります。
大手企業では、仕組みはあるのに回っていない、というご相談が多くあります。
- 標準プロセスの定義書はあるが、現場が知らない
- 不具合は記録しているが、ほかの部署に横展開されない
- 設計変更が口頭やメールで伝わり、後工程で手戻りが出る
一方、中小企業では、「AIやツールに興味はあるが、自社のどの仕事にどう使えばいいか分からない」というご相談がいちばん多いです。
あわせて読みたい:業務の属人化を解消する方法と成功事例。「属人化を排除した結果」どうなる?
データ化の前にやるべき3つのこと
では、何から始めればよいのでしょうか。
テクライムがおすすめしているのは、データ化の前に「見える化→問題の整理と優先順位付け→標準化」の3つを進めることです。

➀業務を見える化する
まずは現場の事実を集め、業務の流れとして描きます。ポイントは、手順だけでなく、現場の本音まで含めて事実をつかむことです。公式の手順をきれいに描いても、なぜ現場がその通りに動いていないのかまでは見えないからです。
業務フローを作ることがゴールではありません。本音から見えた「本当の原因」を明らかにすることが目的です。
➁問題を整理し、どこから変えるかを決める
見える化すると、問題が次々に見つかります。ただし、全部を一度に変えようとすると現場が疲れてしまいます。影響の大きいところから順番を決めることが大切です。
見える化した結果、「システムを入れる前に、この業務自体をやめよう」という判断になることもあります。
ある会社では、事務まわりの業務を見える化したところ、とても長い一本道の作業の流れになっていました。その中には、設計や製造の担当者と定期的に情報を共有するだけで要らなくなる作業がいくつもありました。また、部門の境目があいまいで同じ作業を二重にしていたケースでは、境目を整理するだけで二重の作業がなくなりました。
いずれも、システムを入れる前に、まず業務を減らすほうが先だったのです。
➂業務を標準化する
やり方、判断の基準、ノウハウをそろえます。ベテランの頭の中にあるノウハウを整理することも、標準化の一つです。
整理しないままAIを入れても、期待した効果は出ません。たとえば過去の図面をAIに読み込ませて似た図面を探せるようにしても、「なぜその設計にしたのか」という判断は図面に書かれていないため、肝心なところは出てこないのです。
どこまで整えたら、ツールやAIを始められる?
全部がそろうのを待つ必要はありません。対象の業務1つについて、「流れ」「判断の基準」「使う情報(図面や過去の見積など)」が整理できれば、小さく試すことができます。
標準化とAIは同時に進め、試しながら足りない部分を整理していけばよいのです。
▼ベテランのノウハウを言葉にする方法は、こちらの記事で詳しく解説しています。
あわせて読みたい:暗黙知を形式知に変える5つの方法。ベテランの技を現場で全員が使えるようにするには?
▼DXが現場に定着しない理由/現場が主体となって業務改革を進める方法をまとめた資料を、以下から無料でダウンロードいただけます。
製造業のDXの進め方と、AI活用までつなげた事例

続いて、テクライムの支援で成果につながってきたDXの進め方と、実際にAIやデータの活用までつなげた事例を紹介します。
ポイントは、大きな投資を決める前に、まず数か月単位で現場の実態と優先順位を明らかにし、効果の出やすい業務から小さくデジタル化していくことです。
- ➀目的を決める(何を良くしたいのか)
- ➁業務全体を見渡し、何をどこから変えるかを決める
- ➂重点業務を標準化する
- ➃小さく試す
- ➄定着させて、ほかの業務に広げる
また定着のために欠かせないのが「人事」の視点です。標準化や正しいデータ入力に取り組んだ人がきちんと評価される仕組みにしないと、「手間だけが増えた」と受け止められ、DXは定着しません。
現場・技術とDXに加えて、人事の仕組みまで一緒に見られることがテクライムの支援の特徴です。
事例1:【株式会社サイトー】ノウハウを整理してから「ナレッジAI」へ
支援前:熱処理設備の設計・製造事業において、設計のノウハウがベテランの頭の中にあり、必要なときにすぐ取り出せる状態ではありませんでした。また、原材料の価格高騰で粗利が圧迫され、お客様に単価アップをお願いしたいものの、その根拠になるデータがない、という悩みも抱えていました。
やったこと:まず技術継承の取り組みとして、ベテランのノウハウを業務フローとノウハウメモに整理しました。その形式知をAIと組み合わせ、必要なノウハウを社員がすぐに引き出せる「ナレッジAI」をつくっています。先に整理していたからこそ、AIに何を読ませればよいかがすぐに決まりました。
見積業務では、引き合いから見積までの流れをすでに見える化していたので、その流れに沿って、どこにどのデータがあるかを整理しました。そのうえで過去数年分のデータをまとめ、価格のトレンドをBIツール(データをグラフなどで見える化する道具)で確認できる環境を整えました。
支援後:業務の見える化と整理を進めた結果、手戻りは3分の1に、物を探す時間は5分の1に減りました。ムダが減った分、生産性と粗利が上がっています。
事例2:【大手自動車部品メーカーの開発部門】形式知を「使える形」に整理してからAIへ
支援前:部品の開発・設計業務において、標準プロセスや設計標準、過去のトラブル事例・禁則集などの形式知はしっかり作られ、設計レビューのたびに確認するルールもありました。
ところが知見が数千件規模に膨らみ、関係のないものまで毎回確認しなければならず、見落としのリスクや確認工数が増える原因となっていました。
やったこと:知見をパターンごとに整理し直し、似た案件や必要な知見にすぐたどり着ける枠組みをつくりました。
支援後:今回必要な情報だけを確認できるようになり、確認の手間は2分の1から5分の1に減りました。さらにAIと組み合わせることで、より生産性を上げています。
このほか、非常用電源設備の工事会社では、整理したノウハウを社員がAIで検索できるようにする取り組みも進めています。
AI・システム開発は、どこまで一緒に進められる?
テクライムは、見える化・要件の整理・PoC(小さく試して効果を確かめる段階)までを担当し、PMOとして全体を進めます。本開発は提携先のシステム会社が担当します。
本開発の費用には、ものづくり補助金を活用いただいた実績もあります。
また、さまざまな形式の見積書を自社の形式に変換して出すAIサービス「見積転載くん」も提供しています。
▼「どの業務から試せばいいのか分からない」という段階でも、テクライムが現場の整理からAI活用まで一緒に考えますので、お気軽にご相談ください。
DXを外部と進めるときのパートナーの選び方
最後に、DXを外部の力を借りて進める場合のパートナー選びについて解説します。
DXを外部と進めるとき、ツールを提供する会社、調査・分析をして提案書を作る会社、現場に入って一緒に進める会社では、役割が大きく違います。「何から変えるか」がまだ決まっていない段階では、ツール選びより先に、現場の整理を頼める相手が必要です。
| 進め方 | 期間の目安 | 社内の負担 | 向いているケース |
| 調査・分析をもとにした提案型の支援 | 3〜6か月 | 資料の準備やヒアリング対応で、管理職・改善担当の負担が大きくなりやすい | 社内に改善を進める人材がいて、短期間で答えがほしい |
| 社内だけで進める改善 | 6〜24か月 | 改善担当に負担が集中しやすい | 時間をかけられ、部門間の調整を社内で進められる |
| 現場に入って一緒に進める伴走型の支援 | 6〜12か月 | 管理職・現場社員の負担は小さく抑えられる | 何から始めるか決まっていない/定着まで進めたい |
(※テクライムのこれまでの支援を基準に目安を整理)
テクライムにご相談いただく会社のうち、外部の支援を受けたことがある会社からは、次のようなお話をよく伺います。
業務フローの図とツールだけを渡され、「次回までに書いておいてください」と言われる。数十件から数百件の質問シートに回答させられる。結局だいたい誰も書かず、現場が疲れるだけで終わってしまった。
これは珍しいことではなく、テクライムのメンバー自身が大手メーカーで勤務していた頃にコンサルを受ける側として実際に経験があります。しかし、テクライムではこのやり方をとりません。
また、テクライムはツールだけを売る会社でもなく、現場・技術と人事とDXの三方向から、何から変えるかを一緒に整理するパートナーです。
「見えないものは、変えられない」GENBA SCOPE(ゲンバスコープ)
テクライムが提供する「GENBA SCOPE(ゲンバスコープ)」は、現場の事実と本音を見える化し、次の変革につなげる伴走型のサービスです。「見える化」は目的ではなく、変革の起点だと考えています。
- まず約3か月で「GENBA変革ジャーニーマップ」をつくる:業務全体を見渡し、何をどこから変えるかを明らかにします。そのうえで、重点プロセスの深掘り、テーマの実行(業務改善・標準化・技術継承・DX・AI・システム化)、継続的な伴走へと進みます
- 本音まで含めて事実をつかむ「ホンネスコープ」:200社を超える支援の経験をもとに、学術的な枠組みにも沿って体系化した、テクライム独自のメソッドです
- 2つの支援タイプから選べる:一緒に取り組む「業務変革伴走型」と、自分たちで変えられるようにする「自走化支援型」の2タイプがあります。中小は伴走型、大手は自走型と決まっているわけではなく、御社の成熟度に合わせてお選びいただけます
- 現場の負担は小さく:ヒアリングは週30分。既存の資料を起点に進めます
自走化支援型では、最初の業務フローは一緒に作り、次はお客様自身に作っていただいてテクライムがレビューし、最後はお客様が自分たちで回す、という順に進めます。ゴールは「やることが決まっていて、自分たちで回せる組織」です。
製造業のDXに関するよくある質問(FAQ)
Q1. 製造業のDXは、何から始めればいいですか?
ツール選びではなく、業務の見える化から始めます。誰が、どの順番で、何を見て判断しているのかを描き、社内の当たり前を疑うところが出発点です。
Q2. 中小企業でもDXは必要ですか?
必要です。ただし、高機能なシステムから入る必要はありません。紙・Excel・口頭で回っている業務を整理し、データにするところから始めれば、少ない投資でも効果が出ます。
Q3. どこまで標準化できたら、AIやツールを入れられますか?
全部がそろうのを待つ必要はありません。対象の業務1つについて、流れ・判断の基準・使う情報が整理できれば、小さく試せます。標準化とAIは同時に進めていきます。
Q4. DXを進める人材がいません。どうすればいいですか?
専任の担当者を置く前に、現場をよく知る人と外部の聞き手で、業務を整理するところから始めましょう。自分たちで回せるようになりたい場合は、方法論を学びながら進める「自走化支援」という選び方もあります。
Q5. 費用はどのくらいかかりますか?補助金は使えますか?
内容と範囲によって変わります。AI・システム開発を伴う段階では、本開発の費用にものづくり補助金を活用いただいた実績があります。
まずは現場の実態を見えるようにするところから
見えないものは変えられません。そして「見える化」は目的ではなく、変革の起点です。
DXを進めるために必要なのは、新しいツールよりも先に、いまの業務と現場の本音を見えるようにすることです。
まずは現場の実態を見えるようにするところから始めませんか。
▼GENBA SCOPEの進め方と支援事例をまとめたサービス資料は、以下から無料でダウンロードできます。
GENBA SCOPEをテーマにしたセミナーも開催予定です。日程はセミナー情報で随時ご案内しますので、ぜひお気軽にご参加ください。
■この記事の監修者

杉浦大介(株式会社Tecrhyme 代表取締役)
1978年愛知県名古屋市生まれ。南山大学経営学部経営学科卒。大手空調メーカーで営業職からキャリアをスタートし、大手自動車部品開発会社に人事として転職、人事変革を推進。人事コンサルティングベンチャー企業でCOOを務め、上場準備期まで企業成長を主導。2023年3月に株式会社Tecrhymeを設立。これまでに1500社以上の経営者・人事責任者への講演活動、200社以上のコンサルティングを実施。2021年に『理系の[採用・活かし方]トリセツ~テクダンテクジョがあなたの会社を10倍伸ばす』(ぱる出版)を出版。


