「標準化プロジェクトを立ち上げたのに、現場がついてこない」
「マニュアルはたくさんできたが、誰も見ていない」
「標準化の会議が、いつの間にか“資料をつくる会議”になっている」
製造業の経営者や製造部門長から、こうしたご相談をよくいただきます。
結論から言うと、標準化がうまくいかない会社の多くは、標準化そのものが目的になっています。標準化は、品質を安定させる、納期を守る、利益を上げるといった「目標」を達成するための手段です。この順番を取り戻すだけで、現場の動きは大きく変わります。
この記事では、標準化が独り歩きしてしまう理由と、目標から逆算して標準化を進める方法を解説します。
| 落とし穴 | 起きること | 立て直し方 |
|---|---|---|
| 1.標準化が目的になる | 独立したプロジェクトになり、現場の目標とつながらない | 部門の目標を達成するための活動に組み込む |
| 2.今の業務をそのままマニュアル化する | ムダな手順まで固まり、かえって動きにくくなる | 先に業務の流れを見直し(ECRS)、そのあとで文書化 |
| 3.全社の問題と部門の問題を混ぜる | 部門の利害がぶつかり、話が進まない | 全社で決めることは経営が主導、部門のことは部門の目標に |
標準化とは何か——「誰でもできるようにする」だけではない
標準化とは、一般的には「仕事のやり方をそろえ、誰がやっても同じ品質・同じ時間でできる状態にすること」を指します。
ただ、ここに落とし穴があります。「誰でもできるようにする」という言葉だけが先に立つと、今のやり方をそのまま書き写したマニュアルができあがります。今のやり方にムダや分断があれば、それもそのまま固まってしまいます。
Tecrhymeでは、標準化をこう捉えています。
「業務がきちんと流れる状態をつくり、そのうえで、誰でもできるようにすること」
つまり、標準化の前に「業務がちゃんと流れているか」を確かめる段階が必要なのです。
標準化がうまくいかない3つの落とし穴
落とし穴1:標準化そのものが目的になり、独り歩きする
よくあるのが、「標準化プロジェクト」を独立して立ち上げるパターンです。担当者が決まり、会議が設定され、マニュアルづくりの計画が立つ。一見、順調に見えます。
しかし、現場の人から見ると、それは「日々の仕事とは別の、余計な宿題」です。自分の部門の目標とつながっていないので、優先順位が下がり、いつの間にか止まってしまいます。
実際の支援先でも、経営者自身が「標準化が独り歩きしてしまった。標準化は目的ではなく、その先の目標を達成するためのものだと、立て付けをリセットしたい」と話されたことがありました。
立て直し方:標準化を独立したプロジェクトにせず、各部門の目標活動の一部として位置づけ直します。「品質のばらつきを減らす」「納期遅れをなくす」といった目標を先に置き、そのために必要な標準化だけに取り組みます。
落とし穴2:今の業務を、そのままマニュアルにしてしまう
2つ目は、業務を見直さずに文書化してしまうことです。
業務を見える化してみると、長い一本道の作業の流れになっていたり、部門の境目があいまいで同じ作業を二重にしていたりすることがよくあります。その状態のままマニュアルにすると、ムダな手順まで「正しいやり方」として固まってしまいます。
立て直し方:マニュアル化やデジタル化の前に、業務の流れを見直します。そのときに役立つのが「ECRS(イクルス)」という考え方です。
| 視点 | 意味 | 問いかけの例 |
|---|---|---|
| E(Eliminate:なくす) | 形だけになっている作業をやめる | この転記、誰が使っている? |
| C(Combine:まとめる) | 複数の作業を一つにまとめる | 同じ情報を2か所に入力していないか? |
| R(Rearrange:順番を変える) | 手順の順番や担当を入れ替える | 後工程で手戻りが出るのは、前工程の確認が遅いからでは? |
| S(Simplify:簡単にする) | 作業そのものを簡単にする | 判断に迷う箇所に、基準を一行書けないか? |
ある会社では、事務の業務を見える化したところ、設計や製造の担当者と定期的に情報を共有するだけで不要になる作業がいくつも見つかりました。システムを入れる前に、まず業務を減らす。そのうえで残った業務を標準化する方が、ずっと早く、確実に定着します。
落とし穴3:全社で決めることと、部門で決めることを混ぜてしまう
3つ目は、問題の大きさを分けずに議論してしまうことです。
たとえば「生産の進み具合が部門間で共有されていない」という問題は、製造部門だけでは解決できません。営業、設計、購買など、複数の部門にまたがるからです。こうした問題を部門の担当者同士で話し合うと、それぞれの立場や利害がぶつかり、なかなか前に進みません。
立て直し方:問題を2つに分けます。
- 全社で検討すべき問題(部門をまたぐ情報の流れ、役割分担など)→ 経営層が主導して決める
- 部門内で対応できる問題(部門内の手順、判断基準など)→ 各部門が目標を持って取り組む
部門をまたぐ話し合いでは、第三者が入ることで、利害から離れて事実をもとに話しやすくなります。
目標から逆算する標準化の進め方
ここまでを踏まえた、標準化の進め方です。
| ステップ | やること | ポイント |
|---|---|---|
| 1.目標を決める | 品質・納期・コストなど、達成したい目標をはっきりさせる | 「標準化すること」を目標にしない |
| 2.現状を見える化する | 業務の流れを図にし、どこで止まり、どこで手戻りが出ているかをつかむ | 本音まで聴く |
| 3.目指す状態を描く | 3年後くらいの「理想の流れ」をイメージする | 最終形があると、途中の判断がぶれない |
| 4.優先順位をつける | 影響が大きく、効果が見えやすいところから着手 | 全部を一度にやらない |
| 5.流れを見直す(ECRS) | なくす・まとめる・順番を変える・簡単にする | マニュアル化の前にやる |
| 6.標準化・文書化する | 見直した流れを、手順や判断基準として残す | 現場が使う言葉で書く |
| 7.振り返る | 目標に近づいたか、現場が回っているかを確かめる | 入れっぱなしにしない |
ここで大切なのが、改善しすぎないバランスです。標準化や効率化を進めると、一見ムダに見えるものをどんどん削りたくなります。しかし、その中には、お客様への細やかな対応や、社員同士の助け合いといった、会社の良さを支えているものが含まれていることがあります。改善によって、かえって業務が滞ったり、現場のやる気が下がったりしては本末転倒です。
■杉浦のひとこと
私は以前、自動車部品の業界で人事などの仕事をしていました。そこでよく言われたのが、「仕事は、成果を出して終わりではない。うまくいったことも失敗したことも、手の内に入れて標準化し、残すところまでが仕事だ」ということです。
正直に言うと、最初は面倒だと思っていました。でも、自分たちがやってきたことを整理して残してみると、新しい発見がある。それが次の仕事を確実に良くしていく。標準化は、誰かに押しつけられる作業ではなく、自分たちの仕事の価値を上げるためのものだと、そのとき実感しました。
標準化は「人の評価」とセットで考える
標準化に取り組むのは、手間のかかる仕事です。その努力が評価されなければ、続く人はいません。リーダー以上の役割に「標準化」をはっきり書き込み、取り組んだ人が評価される仕組みにすることが、標準化を定着させる近道です。評価制度への入れ方は、「製造業の人事評価制度導入、1年目でつまずく4つのポイント」の記事で詳しく解説しています。
▶ 関連記事:製造業の生産性向上は「見える化→標準化→デジタル化」の順番が命!失敗しない進め方解説
▶ 関連記事:製造業の業務効率化が定着しない本当の理由
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標準化の進め方でよくある質問(FAQ)
Q1. 標準化はどの業務から始めればよいですか?
目標への影響が大きく、多くの人が困っている業務から始めます。たとえば「この情報がどこにあるか分からない」「毎回同じところで手戻りが出る」といった、現場の誰もが感じている困りごとです。成果が見えやすいところから始めると、ほかの部門にも広げやすくなります。
Q2. マニュアルをつくっても使われません。どうすればよいですか?
今の業務をそのまま書き写していないか、確認してみてください。使われないマニュアルの多くは、現場の実際の流れや言葉とずれています。業務の流れを見直してから、現場の人と一緒に、現場の言葉で書き直すと使われやすくなります。
Q3. 標準化とマニュアル化は、何が違いますか?
マニュアル化は、今のやり方を文書にすることです。標準化は、業務の流れを見直して「きちんと流れる状態」をつくり、そのやり方を誰でもできるようにそろえることです。マニュアルは標準化の結果としてつくるもので、見直しをせずにマニュアルだけをつくると、ムダな手順まで固まってしまいます。
まとめ:標準化は「目標のための手段」に戻すことから
- 標準化を独立したプロジェクトにせず、部門の目標活動に組み込む
- マニュアル化の前に、ECRSで業務の流れを見直す
- 全社で決めることは経営が主導し、部門のことは部門の目標にする
- 改善しすぎて、会社の良さや現場のやる気を削らない
- 標準化に取り組んだ人が評価される仕組みとセットで考える
最初の一歩として、今動いている標準化の取り組みが、どの目標につながっているかを一行で書き出してみてください。書けないものがあれば、それが見直すべき取り組みです。
Tecrhymeの「GENBA SCOPE(ゲンバスコープ)」は、経営層から一人ひとりまで、立場をこえて本音を聴き、業務を見える化し、何をどこから変えるかを明らかにするサービスです。「見えないものは、変えられない。」——標準化を目標につなげ直したい方は、お気軽にご相談ください。
■この記事の監修者

杉浦大介(株式会社Tecrhyme 代表取締役)
1978年愛知県名古屋市生まれ。南山大学経営学部経営学科卒。大手空調メーカーで営業職からキャリアをスタートし、大手自動車部品開発会社に人事として転職、人事変革を推進。人事コンサルティングベンチャー企業でCOOを務め、上場準備期まで企業成長を主導。2023年3月に株式会社Tecrhymeを設立。これまでに1500社以上の経営者・人事責任者への講演活動、200社以上のコンサルティングを実施。2021年に『理系の[採用・活かし方]トリセツ~テクダンテクジョがあなたの会社を10倍伸ばす』(ぱる出版)を出版。


