製造業の人事評価制度導入、1年目でつまずく4つのポイント|技術者が納得する「試験運用」の進め方

製造業の人事評価制度導入 1年目の4つのつまずき 人材育成

「評価制度を作ったのに、1年たっても社員の納得感が上がらない」
「評価シートは配ったが、上司によって付け方がばらばらだ」
「せっかく作った制度が、だんだん形だけになってきた」

人事評価制度を初めて入れた製造業の会社から、こうした声をよく伺います。

結論から言うと、評価制度は「完成させてから入れる」ものではなく、「1年目は試験運用として回し、つまずいた点を直しながら育てる」ものです。つまずく場所はだいたい決まっていて、事前に知っておけば多くは防げます。

この記事では、技術者が多い製造業の人事評価制度づくりを支援してきた経験から、導入1年目に起きやすい4つのつまずきと、試験運用の進め方を解説します。

つまずきよくある状態対策
1.目標の立て方業績目標と挑戦目標が混ざり、同じ物差しで測れない業績目標を1つ必須に。挑戦目標は加点
2.評価基準の伝わり方行動・能力の基準が上司の手元にしかない評価シートを全員に配り、本人評価を入れる
3.期中の振り返り1on1ができず、環境が変わっても目標がそのまま部門長会議などで代え、目標も見直す
4.給与への使い方1年目の点数をそのまま昇給に使う1年目は試験運用として調整を前提にする

人事評価制度の「試験運用」とは

人事評価制度の試験運用とは、新しい評価の仕組みを実際に1期回してみるが、その結果を最初から昇給や賞与にそのまま使わない期間のことです。

評価制度は、等級(社員に期待する役割の段階)・評価・報酬の3つがつながって初めて機能します。ところが、紙の上でどれだけきれいに設計しても、実際に回すと「目標が立てにくい」「基準の意味が伝わらない」「評価する時間が取れない」といった問題が必ず出てきます。

いきなり本番で回すと、そのずれがそのまま社員の給与に響き、不満が一気に高まります。だからこそ、1年目は「回しながら直す期間」と割り切ることが大切です。

人事評価制度の導入1年目でつまずく4つのポイント

つまずき1:目標の立て方が人によってばらばら

最初に起きやすいのが、目標の中身のばらつきです。

ある人は「受注件数を○件」と業績に直結する目標を立て、別の人は「新しい加工方法を身につける」「部門の手順書をつくる」といった中長期の挑戦目標を立てる。どちらも会社にとって大事ですが、同じ物差しで点数をつけると、評価する側も困ります。

実際の支援先でも、評価会議の場で「挑戦目標は、すぐに業績につながるわけではない。それを賞与に反映してよいのか」という意見が出ました。

対策:目標を2種類に分けて整理します。

  • 全員が必ず1つは、業績につながる目標を立てる
  • 中長期の挑戦目標は「加点」として扱う

こうすると、日々の成果と、会社の将来に向けた取り組みの両方を、無理なく評価に入れられます。

つまずき2:行動・能力の評価基準が、本人に届いていない

評価制度には、成果(目標の達成度)だけでなく、「どんな行動をとったか」「どんな能力を発揮したか」を見る基準があります。

ところが1年目は、この基準が上司の手元にだけあって、本人に渡っていないことがよくあります。各等級でどんな行動が期待されているのかを本人が知らなければ、その行動をとりようがありません。評価されても「何を基準に言われているのか分からない」となり、納得感は生まれません。

対策:評価シートを全員に渡し、まず本人にも自分の行動・能力・成果を評価してもらいます。そのうえで上司が評価し、両者のずれを話し合います。本人評価を入れるだけで、「会社が自分に何を期待しているか」が一気に伝わります。

あわせて、評価基準の細かさも見直します。最初から細かすぎる基準をつくると運用が回らなくなるので、まず大まかな基準で回し、「ここはもっと具体的にしたい」という声が出たところから細かくしていくのが現実的です。

つまずき3:期中に1on1ができず、目標が見直されない

3つ目は、期の途中の振り返りがないことです。

評価制度の本来の流れは、期初に目標を立て、期中に上司と1on1(1対1の面談)で進み具合を確かめ、期末に評価する、というものです。ところが中小企業では、管理職がプレイヤーを兼ねていることが多く、期中の1on1がほとんどできないまま期末を迎えることが珍しくありません。

さらに、期中に上司が異動・退職したり、取引先の状況が大きく変わったりしても、期初の目標がそのまま残ってしまう。結果として、期末に「この目標はもう意味がない」という状態で評価することになります。

対策:

  • 1on1が難しい期は、部門長会議で各部門の目標の進み具合を確認する、部門内で月1回振り返るなど、できる形で代える
  • 環境が大きく変わったときは、期中でも目標を見直してよいと決めておく
  • 部門をまたいで目標を共有すると、「あの部門はここまでやっている」という良い意味での刺激が生まれ、評価の納得感も高まる

つまずき4:最初から昇給・賞与にそのまま使ってしまう

4つ目は、1年目の評価結果を、そのまま昇給や賞与に直結させてしまうことです。

ここまで見たように、1年目は目標の立て方も、基準の伝わり方も、期中の運用も、まだ整っていません。その状態で出た点数をそのまま給与に反映すると、制度そのものへの不信につながります。

対策:1年目は、評価の仕組みで点数はつけるものの、最終的な昇給の判断には直接使わない、または経営者の見立てと照らし合わせて調整する、と最初に宣言しておきます。

ある支援先では、社長自身が全社員と個別に面談し、「目標に向けてどう動いたか」「途中で何に困ったか」を直接聴いていました。点数だけでは見えない行動の中身を、経営者が自分の目で確かめていたのです。こうした取り組みと評価の点数を突き合わせることで、制度のどこを直すべきかもはっきりしてきます。

■杉浦のひとこと

評価制度づくりで私が学んだのは、「制度の抽象度」と「管理職の力」の釣り合いです。会社の方針を自分の部門の言葉に置き換える力や、メンバーに伝えて巻き込む力を持った管理職がそろっている会社なら、制度はあえて抽象度を高くしておいた方が、現場ごとに使いやすくなります。

でも、その力や、権限を使いこなす感覚がまだ育っていない会社で、抽象度の高い制度をそのまま入れると、まず回りません。全社共通の部分は抽象的でかまいません。そのかわり、各部門・各現場の人が理解できる解像度まで落とし込み、「うちの部門ではこういう意味」という定義をつけておく。これが、うまくいかなかった経験から学んだことです。

人事評価制度の試験運用を成功させる進め方

1年目の試験運用は、次の順番で進めると無理がありません。

時期やることポイント
1.期初制度の目的を全員に伝える評価は「査定」ではなく「期待する役割を伝え、成長を後押しする」ため。評価シートと基準は全員に配る
2.目標設定業績目標1つ+挑戦目標(加点)で立てる上司と本人で話し、会社の方針とつながっているかを確かめる
3.期中できる形で振り返る1on1が難しければ部門長会議や部門内の振り返りで代える。環境が変わったら目標も見直す
4.期末本人評価と上司評価の両方をつけるずれが大きいところは、基準の伝え方か基準そのものに問題があるサイン
5.評価会議全体のバランスを見て、直すところを決める経営者の見立てとも照らし合わせる。昇給への反映は調整を前提に
6.2年目に向けて制度を直して本格運用へ目標の立て方、基準の細かさ、期中の振り返り方を見直す

技術者が多い製造業で、人事評価制度に入れておきたいこと

技術者が多い製造業の評価制度では、もう一つ大事な視点があります。それは、仕事を標準化したり、後輩を育てたりした人が、きちんと評価される仕組みにすることです。

技術系の職場では、「自分の担当の仕事を終えたら、それで終わり」という働き方になりがちです。しかし会社が成長するには、一人前になった人が自分のやり方を手順やノウハウとして残し、ほかの人もできるようにしていく必要があります。

そこでTecrhymeでは、リーダー以上の等級の期待役割に、「標準化」と「人材育成」をはっきり書き込むことをおすすめしています。「仕事を覚えて一人前になったら、それを標準化して、ほかの人もできるようにする。それがあなたの役割です」と言葉にするのです。

こうすると、これまで自主的に手順書をつくったり、後輩の面倒を見たりしてきた人の努力が見えるようになり、評価にも反映されます。同時に、「これが会社のこれからの課題だ」というメッセージも社内に伝わります。

ただし、「標準化をやったら加点」と短絡的に点数だけを付けるのは逆効果です。できる力があるだけでなく、実際にやった経験・実績があって初めて評価する、という考え方を基準に組み込むことが大切です。

現場の業務や技術の見える化と、人事制度を切り離さずに考える。これが、技術者が多い会社の評価制度づくりで、Tecrhymeがいちばん大切にしていることです。

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人事評価制度の試験運用でよくある質問(FAQ)

Q1. 人事評価制度の試験運用は、どのくらいの期間が必要ですか?

半年から1年、評価の期で言えば1期分が目安です。1期回すと、目標の立て方・基準の伝わり方・期中の振り返りの課題がひと通り見えます。2期目から本格運用に移る会社が多いです。

Q2. 従業員が少ない会社でも、評価制度は必要ですか?

人数が少ない会社ほど、経営者の頭の中にある「期待」を言葉にする価値があります。立派な制度でなくても、等級ごとに期待する役割を数行で書き、本人と共有するだけで、社員は何を目指せばよいかが分かるようになります。

Q3. 管理職が忙しくて1on1の時間が取れません。どうすればよいですか?

無理に毎月1on1を入れるより、部門長会議で目標の進み具合を確認する、部門内で月1回振り返る、といった「今ある会議」を使う方法から始めましょう。大切なのは、期の途中で一度でも目標と現状を照らし合わせることです。

まとめ:評価制度は「1年目に完成させない」ことが成功の近道

人事評価制度は、導入1年目に必ずどこかでつまずきます。

  • 目標の立て方がばらばら → 業績目標1つ+挑戦目標は加点
  • 評価基準が本人に届いていない → 評価シートを全員に渡し、本人評価を入れる
  • 期中の振り返りがない → できる形で振り返り、目標も見直す
  • いきなり給与に直結 → 1年目は試験運用として調整を前提にする

最初の一歩として、今の評価シートを全員に配り、本人に自己評価をしてもらうことから始めてみてください。それだけで、会社が社員に何を期待しているのかが伝わり始めます。

Tecrhymeでは、技術者が多い企業の等級・評価制度づくりから、業務の見える化、標準化までを一体で支援しています。制度の見直しや運用でお困りの方は、お気軽にご相談ください。

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■この記事の監修者

監修者 杉浦大介(株式会社Tecrhyme 代表取締役)

杉浦大介(株式会社Tecrhyme 代表取締役)
1978年愛知県名古屋市生まれ。南山大学経営学部経営学科卒。大手空調メーカーで営業職からキャリアをスタートし、大手自動車部品開発会社に人事として転職、人事変革を推進。人事コンサルティングベンチャー企業でCOOを務め、上場準備期まで企業成長を主導。2023年3月に株式会社Tecrhymeを設立。これまでに1500社以上の経営者・人事責任者への講演活動、200社以上のコンサルティングを実施。2021年に『理系の[採用・活かし方]トリセツ~テクダンテクジョがあなたの会社を10倍伸ばす』(ぱる出版)を出版。

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