業務可視化の手法・ツールと進め方|製造業の現場を疲弊させないコツ

業務可視化の手法・ツールと進め方 業務効率化

「業務可視化を始めたが、担当部署から『そんな時間はない』と言われて止まった」
「業務フローの図はできたが、その後なにも変わっていない」
「ツールを入れれば見える化できると思ったのに、入力が続かない」

製造業の企画担当者や現場の責任者から、こうしたご相談をよくいただきます。

結論から言うと、業務可視化がうまくいかない原因の多くは、手法やツールではなく「進め方」にあります。現場に書かせる、目的を決めずに図をつくる、本音が出てこない——この3つを避ければ、可視化は働く人の負担ではなく、変革の出発点になります。

この記事では、業務可視化の基本的な手法とツールを整理したうえで、現場を疲弊させずに進めるコツと、可視化のあとにやるべきことを解説します。

よくあるつまずき起きることこう進める
1.現場に「書いておいて」と頼む誰も書かず、現場が疲れて止まる聴き取って書くのは推進する側。現場は話すだけ
2.目的を決めずに全部を図にする図が増えるだけで、何も変わらない「何を良くしたいか」を先に決め、範囲を絞る
3.建前の手順だけを集める本当の問題が出てこない本音まで聴き、困りごとや手戻りを拾う

業務可視化とは——「図をつくること」ではない

業務可視化とは、誰が・いつ・何を見て・どう判断し・次の人に何を渡しているかを、ほかの人にも分かる形にすることです。「業務の見える化」とも呼ばれます。

一般的には、業務の流れをフローチャートなどの図にすることと説明されます。ただ、図そのものに価値があるわけではありません。Tecrhymeでは、業務可視化をこう考えています。

「見えないものは、変えられない。見える化は目的ではなく、変革の起点である。」

業務を見える化すると、次のようなことが初めて分かります。

  • どこで仕事が止まり、どこで手戻りが起きているか
  • 同じ作業を部門ごとに二重にしていないか
  • その人にしか分からない判断(属人化)がどこにあるか
  • そもそも、やめてもよい作業はないか

可視化のゴールは、ここから「何を、どこから変えるか」を決めることです。

業務可視化の主な手法とツール

業務可視化には、いくつかの代表的な手法があります。目的に合わせて使い分けます。

手法どんなもの向いている場面
業務の棚卸し(一覧表)業務を洗い出し、担当・頻度・かかる時間を表にするまず全体の量と偏りをつかみたいとき
フローチャート作業と判断の順番を、箱と矢印で表す1つの業務の手順を整理したいとき
スイムレーン図(業務フロー図)担当や部門ごとに列を分けて流れを描く部門をまたぐ受け渡しや、待ち時間を見たいとき
BPMN(業務の流れを描く国際的な表記ルール)記号の決まりがそろった業務フロー多くの部署で同じ書き方にそろえたいとき、システム化を見すえるとき
判断基準・ノウハウの書き出し「何を見て、どう判断したか」を言葉にするベテランの判断や、技術の継承が課題のとき

手法選びで迷ったら、「何が分かれば、次の一手が決められるか」から逆算します。部門間の手戻りが問題ならスイムレーン図、特定の人に仕事が集中しているなら判断基準の書き出し、というように選びます。

業務可視化ツールの種類と選び方

業務可視化ツールは、大きく3つに分けられます。

種類例特徴
作図ツール業務フローを描くソフト、ExcelやPowerPoint手軽に始められる。描く人の手間がかかる
業務の記録・分析ツールパソコンの操作記録から業務を分析するもの、タスク管理事務作業の量や時間を数字でつかみやすい
ノウハウ共有ツールマニュアル作成、社内の情報検索見える化した内容を日々の仕事で使う段階で役立つ

ツール選びで一番大事なのは、ツールを先に決めないことです。

「ツールを入れたのに、入力が続かない」という声の多くは、何を見える化したいのかが決まらないまま導入した場合です。特に製造業の現場では、パソコンの前にいない人も多く、入力の手間そのものが続かない原因になります。

まずは紙やExcelでもかまいません。目的と対象の業務が決まり、どんな情報をそろえたいかがはっきりしてから、ツールを選ぶ方が失敗しません。

業務可視化ツールを選ぶときのチェック項目

目的が決まったら、次の5つの点で候補を比べます。特定の製品がよい・悪いではなく、自社の使い方に合うかどうかで選びます。

チェック項目確かめること
1.現場の人が入力できるかスマホや音声でも使えるか。パソコンの前にいない人が多くても続けられるか
2.図を描く人の手間はどのくらいか1つの業務を図にするのに、どれくらいの時間がかかるか。描ける人が限られないか
3.担当者が自分たちで更新できるか仕事のやり方が変わったとき、担当者が自分で直せるか。細かく作り込みすぎていないか
4.共有・閲覧の範囲を決められるか部門ごと・役職ごとに、見せる範囲を分けられるか
5.費用に見合うか毎月の費用はいくらか。最初は紙やExcelで代わりにならないか

3つ目は特に見落とされがちです。後で紹介するように、私たちも業務の番号を細かく分けすぎて、お客様が自分たちで更新しきれなくなった経験があります。描いた図は、仕事が変わるたびに直していくものです。「誰が、どのくらいの手間で直すのか」まで考えて選ぶと、入れたのに使われないという失敗を防げます。

業務可視化でよくある失敗——現場が疲弊する3つのパターン

失敗1:現場に「書いておいてください」と頼む

業務フローの図とツールだけ渡して「次回までに書いておいてください」と頼む、数十〜数百項目の質問シートに答えてもらう——だいたい誰も書かず、現場が疲れて終わります。日々の仕事で手一杯なうえ、慣れた仕事ほど自分では言葉にしにくいからです。Tecrhymeのメンバー自身も、大手メーカーにいた頃に受ける側でこれを経験しました(詳しくは製造業のDXが進まない5つの理由で書いています)。

こう進める:聴き取って書くのは、推進する側の仕事です。担当者は、ふだんの言葉で話してもらうだけにします。既存の資料(手順書、帳票、日報など)があれば、それを出発点にすると聴く時間も短くなります。

失敗2:目的を決めずに、全部を図にしようとする

「まずは全業務を見える化しよう」と始めると、図はどんどん増えますが、何も変わりません。描くこと自体が目的になり、担当者は「また資料づくりか」と感じてしまいます。

実は、私たちにも苦い経験があります。ある支援で、業務に振る番号(枝番)を細かく分けすぎたことがありました。図は精密になりましたが、お客様が自分たちで更新しきれず、運用が回らなくなってしまったのです。それ以来、細かさは「目的に必要なところまで」と決めています。

こう進める:先に「何を良くしたいか」を決めます。納期遅れを減らしたい、見積を特定の人に頼らずに出したい、新人が早く一人前になれるようにしたい——目的が決まれば、見える化する範囲と細かさも決まります。

失敗3:建前の手順だけを集めてしまう

手順書に書いてあるとおりの「正しい流れ」を聴いても、本当の問題は出てきません。問題は、手順書に書かれていないところにあります。たとえば、「実はこの確認は毎回飛ばしている」「前の工程から来る情報が足りないので、いつも電話で確認し直している」といった話です。

ところが、こうした本音は、評価や責任を気にして簡単には出てきません。

こう進める:まず相手の置かれた状況を理解し、仕事の難しさや工夫を聴くところから始めます。「この人は分かってくれる」と感じてもらえると、困りごとや手戻りの話が出てくるようになります。Tecrhymeでは、立場をこえて本音まで含めて事実をつかむ手順を「ホンネスコープ」として体系化しています。

現場を疲弊させない業務可視化の進め方

ここまでを踏まえた進め方です。

ステップやること現場を疲弊させないコツ
1.目的を決める何を良くしたいかを一文で書く「見える化すること」を目的にしない
2.範囲を絞る目的に関わる業務・部門から始める全部を一度にやらない
3.資料を集める既存の手順書・帳票・日報などをそろえるゼロから書かせない
4.聴き取る担当者に、ふだんの言葉で話してもらう1回30分ほどの短い時間で区切る
5.図と文書にする業務フロー、判断基準、困りごとの一覧にまとめる書くのは推進する側
6.確かめるできた図を担当者に見てもらい、ずれを直す「合っているか」だけを聴く
7.変える順番を決める問題を整理し、どこから変えるかの優先順位をつける効果が見えやすいところから

ポイントは、担当者に頼むことを「話すこと」と「確かめること」の2つだけにすることです。これなら、日々の仕事を止めずに進められます。

可視化のあとは、見つかった問題に合わせて、業務の見直し・標準化・技術継承・システム化やAI活用へと進みます。ここで大切なのは、マニュアル化やデジタル化の前に、なくせる作業・まとめられる作業がないかを見直すことです(詳しくは関連記事で解説しています)。

▶ 資料「製造業の属人化解消ガイド」をダウンロードする

Tecrhymeの事例:見える化で「業務が減った」「頑張りが見えた」

事務の業務を見える化したら、要らない作業が見つかった

事務の業務を見える化したら長い一本道になっていて、設計・製造と定期的に情報を共有するだけで要らなくなる作業や、二重にやっていた作業が見つかった会社があります。システムを入れる前に、まず業務を減らす——この事例は製造業のDXが進まない5つの理由で詳しく紹介しています。

全社の見える化から、役割と評価の仕組みへ(三立機械工業株式会社)

三立機械工業株式会社では、全社の業務を見える化したうえで、部門・階層ごとの期待役割と等級の基準をつくり、リーダー以上の役割に「標準化」と「人材育成」を書き込みました。それまで自主的に標準化に取り組んでいた人の努力が見えるようになり、見える化した内容が人の役割や評価にまでつながりました。詳しい経緯は業務の属人化を解消する方法と成功事例で紹介しています。

■杉浦のひとこと

特に中小企業では、業務を言葉にすること以上に「書く」ことがきついんです。だから私たちは、書いてもらうのではなく、ふだん使っている言葉で話してもらうことを大事にしています。話してもらえれば、整理するのは私たちの仕事です。

ふだんの言葉で話してもらうと、手順書には書かれていない工夫や、本当の困りごとが自然に出てきます。業務可視化で一番価値があるのは、実はその部分だと思っています。図をきれいに描くことより、一人ひとりの言葉を丁寧に聴くことの方が、ずっと大切なんです。

▶ 関連記事:製造業の生産性向上は「見える化→標準化→デジタル化」の順番が命!失敗しない進め方解説
▶ 関連記事:製造業の業務効率化が定着しない本当の理由
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▶ 関連記事:暗黙知を形式知に変える5つの方法
▶ 関連記事:「標準化」が目的になると現場は動かない

業務可視化でよくある質問(FAQ)

Q1. 業務可視化は、どの業務から始めればよいですか?

「何を良くしたいか」に一番関わる業務から始めます。たとえば納期遅れが課題なら、受注から出荷までの流れのうち、手戻りや待ちが多い部分です。多くの人が困っていて、効果が見えやすいところから始めると、ほかの部門にも広げやすくなります。

Q2. 業務可視化ツールは、何を選べばよいですか?

ツールを選ぶのは、目的と対象の業務が決まってからにします。最初は紙やExcelでも十分です。そろえたい情報がはっきりしてから、作図・記録・ノウハウ共有のどれが必要かを考えると、入れたのに使われないという失敗を防げます。

Q3. 現場が忙しく、業務可視化に時間を割いてもらえません。どうすればよいですか?

担当者に書いてもらうのをやめ、話してもらうだけにします。1回30分ほどの聴き取りで区切り、書くのは推進する側が受け持てば、日々の仕事を止めずに進められます。Tecrhymeの「GENBA SCOPE」では、ヒアリングは週1回30分、資料をまとめるのはTecrhyme側です。

まとめ:業務可視化は「話してもらう」ことから

  • 業務可視化は、図をつくることではなく「何をどこから変えるか」を決めるための起点
  • 手法とツールは、目的から逆算して選ぶ。ツールを先に決めない
  • 現場に書かせない。現場の役割は「話すこと」と「確かめること」だけにする
  • 建前の手順ではなく、本音の困りごとや手戻りまで聴く
  • 見える化した内容を、業務の見直し・標準化・人の役割や評価までつなげる

最初の一歩として、「業務可視化で何を良くしたいのか」を一文で書き出してみてください。その一文が、見える化する範囲と手法を決めてくれます。

Tecrhymeの「GENBA SCOPE(ゲンバスコープ)」は、経営層から一人ひとりまで、立場をこえて本音を聴き、業務を見える化し、約3か月で「何をどこから変えるか」を明らかにするサービスです。ヒアリングは週1回30分、資料をまとめるのはTecrhyme側なので、担当する方の負担を抑えて始められます。

▶ GENBA SCOPE サービス資料をダウンロードする
▶ 業務可視化について相談する

■この記事の監修者

監修者 杉浦大介(株式会社Tecrhyme 代表取締役)

杉浦大介(株式会社Tecrhyme 代表取締役)
1978年愛知県名古屋市生まれ。南山大学経営学部経営学科卒。大手空調メーカーで営業職からキャリアをスタートし、大手自動車部品開発会社に人事として転職、人事変革を推進。人事コンサルティングベンチャー企業でCOOを務め、上場準備期まで企業成長を主導。2023年3月に株式会社Tecrhymeを設立。これまでに1500社以上の経営者・人事責任者への講演活動、200社以上のコンサルティングを実施。2021年に『理系の[採用・活かし方]トリセツ~テクダンテクジョがあなたの会社を10倍伸ばす』(ぱる出版)を出版。

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